Q&A:受益者連続信託で次の受益者が受益権を放棄したら
― 信託は終了する? 課税はどうなる?

「最初の受益者→次の受益者→その次の受益者」と承継していく受益者連続型の民事信託で、途中の受益者が受益権を手放したいときに生じる、信託の存続と課税の疑問を一問一答で整理しました。信託法と相続税法の条文に沿って解説します。各設問の末尾に根拠条文の該当部分を示し、全文は別タブの条文集で確認できます。

📖 引用している根拠条文の全文を別タブで開く

はじめに ― 相続税・贈与税における信託の取り扱い

信託とはどういう仕組みか

信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる相手(受託者)にその財産を託し、受託者が財産(信託財産)を管理・処分して、そこから生まれる利益を受け取る人(受益者)に渡していく仕組みです。民事信託(家族信託)は、認知症への備えや円滑な資産承継のために、家族の間で活用されます。

課税は「財産の名義」ではなく「受益権」に着目する

信託では、財産の名義は受託者に移りますが、税務上はその名義に課税するのではありません。信託から利益を受ける権利(受益権)を持つ人(受益者等)が、その信託財産を持っているものとみなして課税されます。これを受益者等課税の原則といいます。つまり「いま誰が経済的な利益を得ているか」に着目して、相続税・贈与税・所得税が課されます。

相続税・贈与税は「受益権が無償で移る場面」で登場する

受益権(実質的には信託財産)が、適正な対価なしに別の人へ移ったり、新たに生じたりする場面では、その受益権をタダで取得したものとして、贈与税または相続税(みなし贈与・みなし遺贈)の対象になります。相続税法9条の2は、その場面を信託の時間の流れに沿って次のように整理しています相続税法9条の2/別タブ全文

① 信託の効力発生時(1項) 委託者から最初の受益者へ。
② 信託期間の途中で受益者が変わった・増えた時(2項・3項) 前の受益者から新しい受益者へ。
③ 信託が終了した時(4項) 残った財産(残余財産)を受け取る人へ。

いずれの場面でも、その移転が「人の死亡」を原因とするなら相続税(遺贈)、生前の移転なら贈与税、と振り分けられます。さらに、信託財産に借入金などの債務があるときは、受益権を取得した人がその債務も引き継いだものとみなされ、債務を差し引いた純額で評価されます(相続税法9条の2第6項)

受益者連続型信託と、このページのテーマ

「最初は配偶者、その次は子へ」というように、受益者が順番に移っていくよう定めた信託を受益者連続型信託といいます。受益者が移るたびに、上記②(相続税法9条の2第2項)の課税関係が生じます。

このページでは、この受益者連続型の信託で途中の受益者が受益権を「放棄」した場合を取り上げ、「信託は終了するのか」「課税は相続か贈与か」「過去の申告は直せるのか」といった疑問を、以下の一問一答で整理します。

Q途中の受益者が受益権を放棄すると、受益者がいなくなって信託は当然に終了するのですか?
A

必ずしも終了しません。まず、信託法163条が定める終了事由に「受益者が存在しなくなったこと」それ自体はありません(信託法163条各号。いわゆる1年ルールは「受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年継続したとき」=同条2号で、受益者不存在の継続ではありません)。受益者不存在で当然終了するのではなく、信託契約に「その事由が生じたら終了する」と定めがある場合に限り終了します(同条9号)。

さらに、その信託に次順位(後継)の受益者の指定がある場合は、その者が受益者となって信託が存続し得ます。したがって「放棄=受益者不存在=信託終了」と単純には言えず、まずは信託契約の承継・終了に関する定めの確認が出発点になります。

ひとつ注意点として、放棄しようとする受益者が「信託行為の当事者(契約当事者)」である場合は、そもそも受益権を放棄できないとされています(信託法99条1項但書)。放棄が有効にできるのかという前提自体の確認が必要です。
根拠条文(該当部分)信託法163条(終了事由)信託法99条1項但書「受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない」
Q次順位の受益者に移った場合、その受益権の取得にはどんな税金がかかりますか?相続財産として遺産分割の対象になりますか?
A

受益権が宙に浮いて相続財産(民法上の遺産)に戻り、遺産分割協議の対象になる、という整理にはなりにくいと考えられます。信託に関する権利の承継は、私法上の帰属ではなく相続税法のみなし課税規定で処理されるためです。

ある受益者が抜け、新たに別の者が受益者となった場合、その新受益者は、従前の受益者から受益権を取得したものとみなされます(相続税法9条の2第2項)。このとき贈与か遺贈かの区別は同項の括弧書きに内蔵されており、「贈与(従前の受益者の死亡に基因して受益者が存するに至った場合には、遺贈)」とされています。つまり、生前の放棄・承継であれば死亡に基因しないため「みなし贈与」=贈与税の対象となります。

言い換えると、残された受益権は遺産分割協議を経るのではなく、新受益者へみなし贈与として直接帰属し課税されるのが原則的な整理です。「相続財産として遺産分割の対象・贈与非該当」という結論は導かれにくいことになります。

根拠条文(該当部分)相続税法9条の2第2項「新たに当該信託の受益者等が存するに至つた場合…当該信託の受益者等であつた者から贈与(…死亡に基因…遺贈)により取得したものとみなす」/相基通9の2-5
Qでは「放棄」という方法で次順位受益者へ承継させて進めて問題ないですか?
A

到達したい結果(信託を続けたまま次順位受益者へ承継し、みなし贈与として処理する)自体は妥当でも、その経路を「放棄」に頼るのはリスクが残ります。受益者連続の承継が法律上係留しているのは「受益者の死亡」という事実であり(信託法91条)、放棄は法律行為で性質が異なります。放棄には遡及効(はじめから受益権を有しなかったものとみなす)もあり(信託法99条2項)、契約に放棄時の手当てがないと、放棄が次順位への承継を当然に発動させるとは限らず、最悪「受益者不存在」を生じさせかねません。

受益者不存在に転んだ場合のリスク
受益者等が存しない信託となると、相続税法9条の4(受益者等が存しない信託等の特例)により法人課税信託として扱われ、受託者の段階で重い課税が生じうるという問題があります(相続税法9条の4)。なお、受益者が不存在になっても信託は当然には終了せず、信託管理人が置かれます(信託法123条)

そこで、受益者の空白を作らない次の手段で同じ結果を実現するのが安全と考えられます。いずれも相続税法9条の2第2項のみなし贈与の枠内で完結します。

  • 信託の変更による受益者の変更(信託法149条)
  • 受益権の贈与(受益権の譲渡+贈与契約)(信託法93条)

違いは節税効果ではなく、「課税予測の確実性」と「余計な重課リスクの回避」という法的安定性にあります。

根拠条文(該当部分)信託法91条(受益者連続=死亡が係留点)/信託法99条2項「当初から受益権を有していなかつたものとみなす」/相続税法9条の4(受益者等が存しない信託=受託者課税)/代替手段:信託法149条信託法93条
Q「放棄」ではなく信託変更・受益権の贈与で進める場合、手続きや実務で注意することはありますか?
A

受益者の空白を作らない方法(受益権の贈与または信託の変更)で進める場合、次の点を確認・手当てしておく必要があります。

① 信託を変更する場合の同意者 信託の変更は委託者・受託者・受益者の合意が原則ですが(信託法149条)、最初の受益者(=委託者)がすでに亡くなっている場合は、委託者の地位が相続されているかどうかで同意を得る相手が変わります。委託者の地位は信託行為の定めや同意により移転でき(信託法146条)、遺言による信託では委託者の相続人は原則として委託者の地位を承継しません(信託法147条)。まず契約の定めを確認します。

② 受益権を贈与(譲渡)する場合の対抗要件 受益権の譲渡は、譲渡人が受託者へ通知するか、受託者が承諾しなければ、受託者その他の第三者に対抗できません(信託法94条)

③ 税務署への調書 受益者が変わったときは、受託者が受益者別の調書を、その事由が生じた月の翌月末日までに税務署へ提出する義務があります(少額などの例外あり)(相続税法59条3項)

④ 登記・流通税 受益者が変わっても信託財産の名義(受託者)は動かないため、不動産取得税はかかりません。信託目録の受益者の変更登記の登録免許税は、不動産1個につき1,000円です。

⑤ 借入先(金融機関)の同意 融資が付いている信託では、信託の変更・受益者の変更に金融機関の同意を要する条項が入っているのが通常です。実行前に契約と金融機関の意向を必ず確認します。

根拠条文(該当部分)信託法149条146条147条(委託者の地位)/信託法94条(譲渡の対抗要件)/相続税法59条3項(受益者変更調書)
Q過去に「相続財産」として相続税申告していた場合、後から直せますか?
A

当初の申告が、信託受益権を相続財産・遺産分割対象として処理していた場合、それが当てはめの誤りであれば、更正の請求により是正できる可能性があります。これは申告後に新たな事実が生じたものではなく、申告時点で確定していた事実の解釈・当てはめの誤りなので、後発的事由ではなく通常の更正の請求(国税通則法23条1項。法定申告期限から5年以内)で行うのが筋です。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10月です(相続税法27条1項)

たとえば、ある受益者が前受益者の死亡時にみなし遺贈で受益権を取得していたと是正し、その者の取得を増やすことで、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2。1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い金額まで)の枠内で相続税が圧縮され、過大納付分の還付につながる場合があります。

注意:一人だけ直す、はできない
相続税は「相続税の総額」を各人の取得割合で按分する構造のため、一人の課税価格を変えると全体の再計算が必要です。是正で取得が増える相続人がいれば、その人は修正申告となります。また、受益権を「遺産分割対象」から「みなし遺贈・みなし贈与による取得(分割対象外)」へ付け替えると、遺産分割協議の対象範囲自体が変わるため、協議書や信託契約の受益者連続条項との整合確認が欠かせません。
根拠条文(該当部分)国税通則法23条1項「法定申告期限から五年以内に限り…更正をすべき旨の請求をすることができる」/相続税法19条の2(配偶者の税額軽減・1億6千万円)/相続税法27条1項(申告期限=10月)
Q承継に伴う贈与税は、相続時精算課税を使えば抑えられますか?
A

要件を満たせば、相続時精算課税の特別控除2,500万円(相続税法21条の12)と、令和6年(2024年)以後に新設された年110万円の基礎控除(相続税法21条の11の2)の範囲内で、その年の贈与税が生じないようにできる場合があります(相続税法21条の9。贈与者が贈与年1月1日に60歳以上、受贈者が18歳以上の推定相続人等。選択すると撤回不可)

「税金ゼロ」ではなく「繰延」です
相続時精算課税は非課税ではなく課税の繰延です。年110万円の基礎控除分を除いた金額は、贈与時の価額で贈与者の相続時に持ち戻して加算されます(相続税法21条の15・21条の16)。さらに、その相続(いわゆる二次相続)では配偶者の税額軽減は使えないため、一次相続で配偶者に財産を寄せるほど二次相続が重くなる方向に働くことがあります。「当面の手出しがない」ことと「最終的な税負担」は分けて考える必要があります。
根拠条文(該当部分)相続税法21条の9(贈与者60歳以上・受贈者18歳以上・撤回不可)/21条の12(特別控除2,500万円)/21条の11の2(基礎控除)/21条の1521条の16(相続時に持ち戻し加算=繰延)
Q信託財産に借入金(債務)が紐づいている場合、評価で気をつける点はありますか?
A

信託の枠内で受益権を承継する限り、受益権を取得した者は信託財産に属する資産だけでなく負債も取得・承継したものとみなされ、債務が控除された純額で評価されます(相続税法9条の2第6項。評価は相続税法22条・財産評価基本通達202による)

不動産が含まれる場合の負担付贈与リスク
信託財産に不動産が含まれ、借入金(負担)を伴う受益権の移転が「負担付贈与」と構成されると、負担付贈与通達により不動産が通常の取引価額(時価)で評価され、路線価ベースより評価額が膨らむ可能性があります(平成元年3月29日付直評5・直資2-204)。信託受益権の移転にこの通達が直接適用されるかは実務上確立しておらずグレーゾーンのため、不動産の有無と評価方法は要確認です。
なお、信託を「終了」させて残余財産として承継させる設計は、上記9条の2第6項が信託終了の局面(同条第4項)を対象外としているため、債務控除が及ばないリスクがあります。信託を継続させて承継する形(第2項)のほうが、債務控除の面ではむしろ有利に当てはまります。
根拠条文(該当部分)相続税法9条の2第6項「信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなして…」/相続税法22条評価通達202負担付贈与通達(不動産は通常の取引価額で評価)

まとめ

本記事は、AIによる調査整理を活用した一般的な解説であり、特定の個別事案に対する助言ではありません。信託法と相続税法が交差する高度な論点を含み、結論は信託契約書の文言・関係者の状況など個別の事実関係により変わり得ます。実際の取扱いの判断にあたっては、信託に精通した税理士・弁護士等の専門家にご相談のうえ、必要に応じて課税庁への事前照会(文書回答手続)をご検討ください。